メイン州の詩 ~ Ice Storm, Part 2

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©William Ash

「アイスストームの朝 12/22/2013」

 

たとえ

「氷におおわれ、道路はたいへん危険です。」と

天気予報のおじさんが声をあげていても

ドアをあけて一歩踏み出したとたんにすべって転んでも

車がまるまる一台 凍りついていても

クリスマス用のケーキを焼いている途中で停電がおきても

あわてることはありません

 

たしかに

氷におおわれた低木は どんどん頭を下げて折れんばかり

来年に実をつけるはずのブラックべリーの枝は 雪原で総倒れ

森からはひっきりなしに 枝がもげるように折れて落ちる音がして

しかも 氷雨はいまも森を打っています

けれど‥‥あわてることはありません

 

本当に息を飲む瞬間は これからです

ひたすら窓の外をみて 待ちましょう

そして 雲間から太陽が顔を出そうものなら

森に入っていきましょう

絶対に見逃してはいけません

すべてが光のかけらとなって輝き

空間がきらめきの音でいっぱいになるあの瞬間を

 

光の中に こつ然として浮かぶ

神々しいイルミネーションの初まりを

 

今はわが森で冬眠しているシマリスだって

もし目覚めて その光景を見たならば

びっくりして また目を回すことでしょう

 

©大坪奈保美2013

氷の嵐 きたる ~ Ice Storm, Part 1

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by William Ash

12月22日、目覚めると、氷の世界になっていた。アイスストーム(ice storm)を初めて経験したのは、6、7年ほどぐらい前だった。氷雨がふってそのまま触れたものに凍りつき、辺り一面が氷の世界になるということを目の当たりにしても、まだそんなことが起こりえるということが信じられなかった。そして、その美しさにも。アイスストームは停電も引き起こすので、来てほしくないと思いながらも、心のどこかで、またあの稀な美を見たいと思っていた自分がいた。

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by William Ash

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消えゆく炎 その1

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冬の晴れた日の日没
地平線の下にたった今沈んでいった太陽の光を
木々の先がかすかに捉えて立っている
自分の心の中でも
こうした瞬間がいくたびかあったように思え
夕飯の支度に忙しい手を止めて
窓辺で木々をみつめる

ウインター・サプライズ 〜 樹氷

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月曜日 目覚めれば 外は白銀の世界になっていた
まわりの音が雪に吸い込まれて消える 静かな朝
こんな日には 逆に
雪をかぶった木々の 聡明な息づかいが感じられる

その下で 「ハーハー」言いながら
早くも 今年初めての雪かきとなった

時折 枝から滑りおちた雪が
首筋とコートの間から入って 体の中を解けて流れる
スコップを放りなげて悲鳴をあげる我を
白装束の森が 枝をもたげて見下ろしてくる

 

 

メイン州の詩 〜冬の足取り 2013

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by William Ash               画像をクリックしてご覧ください。

この明け方の雨音は 夢のなか?
潤いのある水音は 春の目覚め?

いや いや これが  冬のやりかただ

今年は まず
晩秋に使者を送ってきた
それはまだ 暖かみを残す光のなかで
裸の木々が浮かび上がってくるような午後だった
青い空から 白い花びらのような粉雪を降らしてきた
ほんの数分のことだった

ところが、数日後には
空全体を鳴らして 北極気団が押し入ってきた
弱い木々を 二日間にわたってなぎ倒し
闇にまぎれて 大地を雪で覆っていった

それを見た瞬間 私の心から消えた

たった数センチの雪の下に横たわっている秋が
凪いだ海に浮かんでいたたくさんのヨットが
豊作によろこんだ赤いトマトが
道ばたに咲き乱れていたオレンジ色のユリが 消えた

私は 冬しか知らない北極の生き物になった

蒔きストーブの前にじっと座って
車のフロントガラスの向こうを真っ白にする吹雪を妄想した。
せいぜい5回ぐらいしかない雪かきが
毎日あるかのように思えて心臓が重くなった
証拠にも無く またコートを買うことを考えた

それなのに……

今朝は打って変わって この豊かな雨音が
懐かしい響きをもって 目覚めをさそってくる
カーテンを開ければ
水をたっぷりと吸って 芝は青く
落ち葉は 前よりも一層、色が深い
息を吹き返したのは 秋か それとも我が心の春なのか?

いや いや もう ぬか喜びさせられるのはうんざりだ

見ててご覧!
冬は 今日14度まで気温をあげて溶かしたものを
明日の朝までに 一気にマイナス5度にして
ブラックアイス(注)に仕上げてみせるから
こうして Thanksgivingのパーティーに
はやる心をくじかせて 急ぐ足をすくうのだ

これが  冬のスタイルだ
こうして 冬はやってくる
毎年 人をやきもきさせながら
しかも 見事に 足取りを変えてやってくる

メイン州に住んで7年
11月から12月のこの変わり目が
どうにもこうにも 好きになれない

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先週のThanksgivingの一週間は、快晴だったり、暴風、雨、雪と天候が目まぐるしく変わった。 ときにマイナス25度ぐらいまで下がるメイン州の冬にまだまだ慣れていないので、ほんの冬の入り口でありながらも、この季節の変わり目は落ち着かない。

(注)ブラックアイスとは、路面にできた薄い氷の膜。テカテカと黒光りして見え、アスファルト上の水のようにしか見えないが、実際には凍結しているので、とても滑りやすくハンドルをとられやすいため、非常に危険とされる。

静寂の美 〜 アーカディアに訪れた冬

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South Bubble in Acadia National Park by William Ash クリックしてご覧ください

木々の向こうに、
サウルバブル山(South Bubble)のシルエットが浮かぶ。
黄金色の森は、今や、銀色へと変わった。
蜘蛛の巣のように絡みあう枝には
まだ降ってもいない粉雪が見えるようだ。

 

 

 

森の精霊 ~ 晩秋

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メイン州の晩秋は短い。
太陽が地平線に沈むと 、
冬の深いコバルト色だけが、森を貫く光となる一瞬がある。
そのとき、木の幹は、
白骨のような、上っていく精霊のような
冷たい光を発する。

晩秋の静けさ Part 3

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by William Ash

ーメイン州の詩 ・晩秋のちぎり絵ー

 

風もなく 雲もなく 空が青色だけの日

ちぎり絵の中へ入っていく

 

赤の色紙 橙の色紙

黄色の色紙 べっこう色の色紙

 

みんな足下で色あせて 今もなお

ときおり青の台紙から

ひらひらと剥がれ落ちてくる

 

裸の枝には

灰色をしたドバトが 2羽

台紙に穴をあけたように とまっているだけだ

 

あ~ だれかが

あの穴から こっちをのぞいているんだなぁ

お前は 冬か? もう くるのか?