築地は、東京都中央卸売市場としても知られているが、中の様子はまるでうまく制御された機械と大混乱の間と言えばいいのか。足を踏み入れれば、荒れ狂う川に飛び込んだも同じで、すぐに流れに乗っていくことを覚えなければ、市場の動きにのまれて溺れてしまう。私が築地のこの激流に飛び込んだのは1991年で、世界最大の市場として、当時は毎日およそ3000トンの海産物が取引されていた。が、老朽化に伴い、市場は豊洲へと移転することになった。この小さな写真集「築地ー東京魚市場組曲」を、築地への敬意として捧げる。
この写真集は、3章からなっている。
プレリュード:夕方から早朝にかけて、トラックや船がカーゴを運んできて大量の海産物を下ろし、午前3時には競りに向けた準備が始まる。築地は、マグロで有名だ。新鮮なものや冷凍ものなど、マグロの大群がコンクリートの床に並べられる。午前5時30分には競りが始まり、築地はクライマックスに達する。
クーラント:卸売市場が目を覚ます。競り落とされた魚が、競り場からカート(pages 19, 37)やターレット(page 36)で運ばれていく。帯のこぎりで冷凍マグロが、鮪包丁で新鮮なマグロが解体されていく。売買は、素人の目には見えない。買い手と売り手が長い間に築いた深い関係を通して行われるので、値札を見るのは稀で、市場が閉まる寸前のセール時ぐらいだけだ。こうした取引も、11時までには潮が引くように終る。
間奏曲:昼過ぎ、築地に人の姿はない。柔らかな自然光が、1935年に造られた市場に差し込む。奇妙な静けさだ。市場の外から聞こえてくる弱く低い音だけが、世界でもっとも大きな都市のひとつの経済の中心地にいることを思い出させる。
Tsukiji: Tokyo Fish Market Suite (築地:東京魚市場組曲)
Tsukiji: Tokyo Fish Market Suite (築地:東京魚市場組曲)
写真、デザイン by William Ash
日本語翻訳 by Naomi Otsubo
Paperback, 21.5cm x 21.5cm, 48 ページ, 写真集 40,非塗工紙
ISBN: 978-1-935461-10-4