霧峰に向いて

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Fog bank and Pemaquid Point by William Ash (写真をクリックして、拡大してご覧ください)

ペマキットポイント(Pemaquid Point)まで出かけた。この上なく美しいニューイングランドの秋の日、空に雲はなく、水平線もくっきりと見えているかのようだった。

ところが、目を凝らしてみれば、水平線と見えていたものは、メイン州ではよくみられる霧峰(fog bank)とよばれる濃い霧の層だった。霧峰は、思いのほか速いスピードで、岩場に座っていた私たちに迫ってきた。

海と空という大きく確かだった空間は、あっという間に霧のなかにきえ、太陽は真昼の白い満月に変わり、その白光にきらめく霧のなかで私たちはじっとして、霧がからだの中をも抜けていくような感覚に酔いしれていた。やがて、波音にまじって、人の声がした。「30年もここに通いつづけているけれど、こんな美しい霧峰は、はじめてだわ。」