ワシントンDCの自然 ~ 噂のブルードX、ついに登場

©William Ash

ワシントンDCの街路樹は、今、セミに占拠されはじめている。その名も「ブルードX」。米国の東部の州に生息する17年周期のセミのグループで、先週のはじめに、1匹だけ木の幹にはりついているのを見たと思ったら、週末には幹の表面に上に向けてたくさんの幼虫が並び、夕刻から羽化を始めた。

17年の間、地面から20~30センチほどの深さの穴の中で、木の根の樹液を餌としてすごしていたらしい。今、近くの街路樹の地面には、直径 2 ㎝ぐらいの穴がボコボコあいていて、路上を大型コオロギのような虫が、ぞろぞろ歩いている。

たいていは近くの木を目指しているのだが、中には方向音痴もいるようで反対方向に向かおうとする幼虫もいる。それらを手でつまんで、木の下にもっていくと、20年ぐらい前に、日本でアゲハの幼虫を育てていたころを思い出す。

ファーブルじゃないが、昆虫というものは神秘の塊で、精密、繊細、きわまりない。

とはいえ、ものすごい数になってきていて、ちと、薄気味悪いでもない。木の周りには抜け殻がたくさん落ちている。木から落ちたり、路上で踏まれたりした死骸も、そこら中に転がっている。

「せっかく地上に出てきたのに」

同情してしまうが、まあ、17年間も地下で生きてこられたのだから、虫としてはかなり長い一生。それに、17年目にあたる今年は、4046㎡ あたり 140万匹という数で登場する。ということは、1㎡あたり350匹? 想像もつかない。

鳥たちにとっては、17年ぶりの食べ放題。この夏、鳥は太るにちがない。

 

追記 2021年5月22日:

幼虫の数が増えるにつれて、幼虫が羽化したあとの抜け殻が、いたるところで見られるようになった。木だけでなくて、電柱や低木、オオバコのような雑草の葉の裏、フェンス、ゴミ箱、コンクリートの壁などでも羽化していた。

追記 2021年5月26日

15州で発生中。西はイリノイ州、東はNY州、南はジョージア州、北はミシガン州までという広範囲。高木はもとより、DCのアパートの生垣の低木もセミだらけ。雑草の影にもいる。こんな光景、見たことがない。「セミは木を見上げて探すもの」という先入観が消えた…。